TOP - ASTRONOMY SIDE - TOTAL SOLAR ECLIPSE 2009
出発
雨のセントレア空港
 自分が「天文」という趣味を始めたのが小学校3年生の頃。その頃からずっと「皆既日食が見たい」という夢を持っていました。皆既日食は非常に狭い範囲でしか見られない天文現象だし、普通だと自分から海外に出かけないといけないものです。でも、天体観測には常にツキモノなのが天気。曇ってしまえば全てがパーになるというギャンブルなものでもあり、日本で見られる今年をずっと待っていました。
 でも、国内ツアーはどこも値段が高い上に競争も激しくて撃沈。皆既日食の時間はちょっと短くなるけど中国ツアーの方に目を向けました。結局、決まったのが中国武漢で観測する星ナビ主催の一泊二日の弾丸ツアーです。梅雨前線の位置や台風から変わった熱帯(温帯かも)低気圧の位置が非常に気になるという状況の中、いよいよ出発です。
 このツアーは、セントレア空港から武漢空港への140名チャーター便で往復します。乗っている人は全員皆既日食を見にいく人たちという、かなり濃ゆい飛行機なのです(笑)。
 セントレア空港は、到着するやいなやの雨。ここで見る訳ではないけど、なんとなく重い気分です。セントレア空港は、初めて行きましたが、かなり広々としているのに人がほとんどいなくて閑散とした雰囲気。すっきりしませんが、先日買った音楽を聞いたりしてちょっと気分を落ち着かせます。そしていよいよ搭乗。武漢へは3時間ちょっと。機内では天文ガイドを読んだりして、明日に備えます。
武漢到着
武漢空港
 武漢に到着したのは15時過ぎ、なんだかいい天気です。気温は37度とのアナウンスがありました。雲量は7位だけど雲は薄目。「日食は今日でもいいよ~」と思う位の天気でした。湿度はそれなりにありましたが、風もそこそこあった関係で、体感的にはちょっと蒸す程度でした。武漢は地図で見ると湖が非常に多くて、蒸すのかなぁと不安でしたが、そんなでもなかったです。
 武漢について最初に行くのは観測地。バスで移動して観測地の下見です。バスのガイドは現地の大学で日本語を勉強しているという呂さん。ニコニコな笑顔で、一生懸命に日本語を話しているのが印象的な女の子でした。日本語は、敬語が難しいらしくて、丁寧に喋っているのに文末が「~しなさい」とか命令調になったりしていました(笑)。 観測地は、人工芝のサッカー場2面と、普通の土の広場の2箇所。望遠鏡を設置して赤道儀で太陽を自動追尾するにはしっかりとした地面が必要なのでサッカー場に決定。そのまま寝転んでも服も汚れないのもポイント高いです。
 Google Mapで見るとここになります。
ホテルでの食事と説明会
食事会場
 そして、ホテルへ移動。「セレブリティシティホテル」というだけのことはあって、割と立派なホテルです。でも、着いて早々に部屋の鍵が空かないというトラブル発生(汗)。近くにいたスタッフの方は中国語しか話せず、ジェスチャーで事情説明。フロントに行って新しい鍵をゲットしてなんとか部屋に入れました。もー。
 その後は、お食事。吹き抜けのちょっと豪華な雰囲気な会場でコース料理を食べます。ナニモノなのかがよく分からない料理が次々に出て来ました。「暖かいワイン入りの杏仁豆腐」とか、謎なものをい色々食べました。個人的には食べられる範囲だったけど、慣れない味にちょっと食は進まず。
 食事はテーブルを囲った形で、ツアーの人と落ち着いて話せたのはこの食事の時が初めて。やはり「皆既日食は何回目ですか?」とか、「昔見た日食の話とか」の武勇伝(?)が話題でした。そして、「無くなったら終わりですよ~」という宣伝文句に押されて日食ティーシャツも購入(笑)。
 食事の後は日食観測説明会。観測での注意事項などが話されました。初めて皆既日食を見る方が半数近くいて、「最初の皆既日食での撮影は失敗するので、目で見た方がいいですよ」とのアドバイスが個人的には1番引っかかったところでした(悩)。説明会が終わると、もう22時近くになっていました。
 天気がよくなることを期待しつつ、熱中症などの対策のためにウィダーインゼリー2個を冷凍庫に投入。明日の撮影計画を秒単位で決めるために、天文ガイドと再びにらめっこ。撮影スケジュールが完成したところで、iPhoneでインターネットに繋いであすの天気のチェックなど。天気はギリギリ持ちそう。雨はなさそうだけど雲がどれだけあるか次第というところ。
 不安を抱えつつ、起床が4時なのでとにかく準備万端に整えて床に付きました。
皆既日食当日
ホテル外観
 起床が4時と早いのは、武漢の日食は8時とちょっと早めだからで、食事が5時で出発が6時です。起きられるか心配だったけど、結局3時に目覚ましなしで目が覚めました。外を見ると星がみえました。ちょっと、勇気が湧いてきました。食事はちょっと慌ただしい雰囲気でしたが、夫婦で来られている方とちょっとお話をしたりしました。夫婦で皆既日食、いいな~(憧)。
 そして、祈るような気持ちでバスに乗り観測地へ向かいます。朝なので空気はまだひんやりとした感じ。ただし、雲量は8位。太陽は雲に覆われていて太陽の輪郭すら確認出来ない状態でした。「なんとかなるさ」と思いつつ、機材の設置を開始。周りを見渡すと、一面望遠鏡やらカメラだらけ、なかなか壮観な感じです。
 第一接触が近づいてくると、なんとか太陽の輪郭は分かる程度に雲は薄くなってきました。スタッフの方がカウントダウンを始め、いよいよ観測と撮影の開始です。とはいえ、部分日食は進み方もゆっくりなので、まだまだのんびりとした感じ。徐々に太陽が欠けていくのを3分刻みくらいで撮影しました。部分日食は過去にも何度も見たことがありましたが、月が太陽の中心に向かって動いていくのを見て、同じ部分日食なのに少しずつ緊張感が高まってきます。
 部分日食自体は前半だけで1時間以上あり、のんびりとしていましたが、80%位欠けて来た頃から少し周りが暗くなり始め、いよいよという雰囲気になってきました。
いよいよ皆既日食
部分日食の様子
 そして、90%を超えて皆既日食が近づくに連れて、太陽の変化は急激に加速を始めます。どんどん細くなっていく太陽。太陽が残りわずかになったとき、月面の凹凸によって太陽がビーズ状に変わっていきます。そして、大気の揺らぎによって、そのビーズ状の太陽がキラキラとまたたくように輝き、月の移動によって徐々に形を変えていきます。消え行く太陽なのにむしろ輝きを増すようにキラキラと輝いて見えました。
 太陽が消えて無くなろうとするのと時を同じくして、辺りは急激に真っ暗になっていきます。あらゆるものが早送りされているかのようにどんどんと夜へと変化していきます。ダイヤモンドリングは雲のせいもあってか、いかにもという姿にはならなかったようでしたが、赤いプロミネンスが立ち昇っている様子を少しの間見ることが出来ました。
 そしてついに第2接触。一瞬太陽が完全に無くなるように見えた後、雲に遮られつつも黒い太陽から吹き出すよなコロナ。雲のために、すこし弱々しいコロナでしたが、望遠鏡で拡大して見るよりも、大空にぽっかり浮かんだ「黒い太陽」にはとても神秘的なものを感じました。皆既日食の時には、太陽そのもの以外にも、シャドウバンドや昼間の星空、月の影の移動のように沢山の天文現象が同時にやってきます。でも、この加速された時間の中では、自分をうまくコントロールすることもままなりません。本当に無我夢中。太陽に雲がかかって一時的に見えなくなった時に、昼間の金星と、地平線の360度の夕焼けはみることが出来ましたがそんな程度。
 雲が厚くなったり薄くなったりを繰り返していくうちに皆既日食も終わりが近づいてきました。周りではため息が漏れる中、再び太陽が輝き始めました。ビーズ状からどんどん大きくなり輝きを増し、細長い円弧状に戻っていきます。皆既日食が終わってしばらくの間、シャッターを切り続けていましたが、時間の流れが元の速度に戻って来たところで、緊張から解き放たれて仰向けになってしばらくそのまま寝転がっていました。皆既日食というのは目だけではなくて体全体で感じるものなんだと思い知らされた感じでした。
 そして、後半の1時間半の部分日食は、余韻に浸りつつ、「終わっちゃったなぁ」とか思いつつ第4接触までを見届けました。そして、「日食はこれ終わりです」というアナウンスとともに、どこからともなく拍手が湧いてきました。少し残念という気持ちと、雲越しながらもこの目で皆既日食を見ることが出来たいう感動が入り混じった複雑な心境でしたが、皆既日食が起こったこの場所にいられて、皆既日食を体感出来てよかったという気持ちでいっぱいでした。
 その後は、食事をして帰国という流れでしたが、「来年のイースター島どうしようか」とか気の早い話もやはりあがっていて、リベンジを考えている人もチラホラ(笑)。日食病という言葉もあるようですが、今回のツアーで日食病にかかってしまった人も多いような気がします。本当に夢のような一瞬で過ぎていった5分27秒でした。
日食全経過

なかなか雲が切れず苦しい感じの写真ですが、人生初の皆既日食の写真としては感慨深いものがあります。
今回の日食については晴れた地域は非常に少なかったため幸運とも言えますし...。